
更年期の不調が「バラバラ」なのには理由がある
「ほてったと思ったら、次は気分が落ち込む」「肩こりがひどいと思ったら、今度は胃の調子が悪い」——検査をしても異常が見つからないのに、次々といろんな不調が出てくる。これが「不定愁訴」と呼ばれる状態です。
実はこれ、更年期にとても起こりやすい現象です。理由は、女性ホルモン(エストロゲン)の受容体が、脳・皮膚・関節・腸・泌尿器など、体のあらゆる場所に存在しているからです。しかも、その受容体は組織ごとに働き方が違うため、エストロゲンが減少したときの影響も、人によって・場所によってバラバラに現れます。「症状が一つに定まらない」のは、気のせいでも大げさでもなく、体の仕組みとして自然なことなのです。
さらに、日本産科婦人科学会の資料によると、どんな症状がどのくらいの強さで出るかは、エストロゲンの変化だけでなく、その人の心理社会的な要因や、気温などの環境要因にも大きく影響される、とされています。
これは、助産師として現場で多くの女性と接してきた実感とも重なります。子どもの頃からの生活環境、日々の生活習慣、嗜好品、仕事や職業、趣味、運動習慣、毎日の食事のバランス、これまでの運動歴や病歴、ストレス、家族構成、出産の有無やその時の状況、子育て——ありとあらゆる要因が積み重なって、この更年期という時期に一気に押し寄せてくる、という印象があります。だからこそ、同じ「更年期」でも、出てくる症状も重さも、人によってまったく違うのです。
視床下部の乱れが、全身に影響を広げる
更年期の不調の中でも代表的な「ほてり」「のぼせ」「発汗」は、脳の視床下部という部分の乱れが関係しています。
視床下部には、体温を一定に保つための「体温調節中枢」があります。通常はここで、暑いと感じる温度と寒いと感じる温度の間に、ある程度の「幅」があるのですが、エストロゲンが減少すると、この幅が狭くなってしまうことがわかっています。すると、ちょっとした体温の変化でも「暑い」と脳が判断してしまい、血管を広げたり汗をかいたりする指令が過剰に出てしまうのです。これが、ほてりやのぼせ、発汗の正体です。
さらに近年の研究では、脳の中の神経ペプチド(ニューロキニンB、カルシトニン遺伝子関連ペプチドなど)が、この体温調節の乱れに関わっていることもわかってきました。この仕組みについては、また別の記事で詳しくお話しします。
そして、興味深いことに、この自律神経の乱れやすさには個人差があります。小さい頃から緊張しやすかったり、赤面症だったり、不安を感じやすかったりした方は、もともと自律神経が乱れやすい傾向を持っていることが多く、更年期になるとその「クセ」が表に出やすくなる、という印象があります。
緊張するとお腹を下してしまう、口が渇く、手に汗を握る——そんな経験はありませんか?これも自律神経(交感神経)の働きによるものです。つまり、更年期の不調の出方には、その人が幼い頃から積み重ねてきた自律神経の反応パターンも関わっている、ということです。
そして、視床下部は体温調節だけでなく、自律神経(交感神経・副交感神経)のコントロールセンターでもあります。そのため、ここが乱れると、体温調節の異常だけでなく、動悸、めまい、頭痛、不眠、気分の落ち込みなど、一見バラバラに見える症状が、次々と連鎖的に出てきてしまうのです。「一つの不調が落ち着いたと思ったら、また別の症状が出てくる」——これも、視床下部という一つの根っこから、いろんな症状が枝分かれして出ている、と考えるとつじつまが合います。
「気のせい」「更年期だから仕方ない」と片付けられがちな辛さ
不定愁訴のつらいところは、検査をしても「異常なし」と言われてしまうことです。「気のせいでは」「ストレスじゃないですか」——そう言われて、余計につらくなった経験がある方も多いのではないでしょうか。
内科でよく耳にする訴えには、こんなものもあります。腰痛、肩こり、視力の低下、指先に力が入らない、お腹まわりだけ太ってしまう、痩せにくくなった、コレステロールや中性脂肪の数値が高くなった、粘り強さがなくなった、持久力が続かなくなった——思い当たること、ありませんか?
一つひとつは「歳のせい」「生活習慣のせい」と片付けられがちですが、これらも更年期のホルモン変化と無関係ではありません。でも、ここまでお話ししてきたように、不定愁訴には視床下部の乱れという、れっきとした体の仕組みが関わっています。決して「気のせい」でも「大げさ」でもありません。数値に出にくいだけで、体の中では確かに変化が起きているのです。
一つひとつの症状だけを見ると軽く扱われがちですが、いくつもの不調が同時に押し寄せてくるつらさは、経験した人にしかわからないものです。まずはご自身がそのつらさを「なかったこと」にしないであげてください。
そして、通常の内科や各専門科では、一つの症状ずつしか診てもらえないことも多いのですが、更年期外来では、こうしたバラバラな症状を「更年期」という一つの視点でまとめて診てもらえます。あちこちの病院を回って疲れてしまう前に、更年期外来という選択肢があることも、知っておいていただきたいです。
どう対処すればいいか
不定愁訴は「原因がバラバラ」なだけに、対処法もバラバラになりがちです。ですが、更年期外来では、そのバラバラな症状を整理して、大きく2つの方向性で考えていくことが多いです。
根本にアプローチする:ホルモン補充療法(HRT)
症状の根っこにあるのは、エストロゲンの減少です。そのため、婦人科や更年期外来では、不足したホルモンを薬で補う「ホルモン補充療法(HRT)」が選択肢の一つになります。視床下部の乱れそのものにアプローチする方法なので、複数の症状が同時に和らぐこともあります。ただし、体質や持病によって向き・不向きがあるお薬なので、必ず医師と相談しながら判断することが大切です。
個々の症状にアプローチする:対症療法
一方で、つらい症状そのものを和らげる対症療法も並行して行われます。たとえば、不眠には睡眠薬、気分の落ち込みには漢方薬やSSRI、めまいや肩こりにはそれぞれの専門科と連携するなど、症状ごとにアプローチする方法です。
どちらが正解ということではなく、症状の重さや体質、ライフスタイルに合わせて、医師と一緒に組み合わせを考えていくのが一般的です。
土台としての生活習慣
薬に頼る・頼らないにかかわらず、食事のバランス、適度な運動、十分な睡眠、ストレスとの付き合い方といった生活習慣は、どの治療法を選んでも土台になります。特別なことをする必要はありません。まずは「揺らぎやすい時期だから、自分を労わっていい」と思うことから始めてみてください。
周りの理解と環境も、治療と同じくらい大切
そしてもう一つ、忘れてはいけないのが、周りの理解と環境です。「更年期だから仕方ない」と自分の中だけで片付けてしまわずに、働き方を見直したり、家族に今の状態を伝えて理解してもらったりすることも、立派な対処法の一つです。
そのためにも大切なのが、「自分自身をよく知ること」です。どんな時に症状が強く出やすいか、どんな環境やストレスが影響しているか——それを自分自身が把握できていると、周りに伝えるときも、治療を選ぶときも、ぐっと楽になります。
なーさんの体験談
正直に言うと、更年期に入ってから出てきた不調を全部数えたら、きりがないくらいです。
まず体のあちこちが痛み出しました。肩こり、首のこり、膝の痛み。指先に力が入らなくなり、視力もどんどん落ちていきました。姿勢も悪くなった気がします。疲れやすくなり、謎の湿疹が出たり、風邪をひきやすくなったり、気づけば過敏性腸症候群にもなっていました。
睡眠も変わりました。眠りについても2時間ほどで目が覚めてしまい、そこから続けて眠れない。熟睡した感覚がまったくないまま朝を迎える日が続きました。
見た目の変化も、正直こたえました。シミやシワが増え、白髪が部分的に目立つようになり、薄毛や髪の傷みも気になるように。まつ毛まで少なくなった気がします。肌は敏感になり、赤みが出やすくなり「しゅさ」にもなっています。たるみは顔だけでなく、胸やデリケートゾーンにまで感じるようになりました。顔も体も、同じようにハリを失っていくのを感じたのです。
そして、一番戸惑ったのは、性欲がなくなり、「女性としての自分」の意識が薄れていくような感覚でした。くしゃみをすると尿もれし、デリケートゾーンは乾燥し、腟の締まりもなくなっていく。太りやすく痩せにくくなった体と一緒に、自分が自分でなくなっていくような不安がありました。
一つひとつを見れば、皮膚科・整形外科・婦人科・内科・美容皮膚科と、バラバラの科にかかるような症状です。でも今振り返ると、これは全部つながっていました。視床下部が乱れ、全身のエストロゲン受容体が影響を受け、体のあちこちで一斉に変化が起きていたのです。「なんで私だけこんなに次々と不調が出るんだろう」と当時は思っていましたが、それには、ちゃんと理由があったのです。
幼少期に克服できなかったことが、更年期に現れる説(なーさんの考え)
ここからは、医学的に実証されたことというより、助産師として長年多くの女性と接してきた中で、私自身が感じている一つの「気づき」としてお話しします。
小さい頃からの自分を、丁寧に思い返してみてください。得意だったこと、苦手だったこと、緊張してしまったこと、嫌いだったこと、嫌だと感じたこと、「絶対にこうする」と心に誓ったこと——生きていれば、そうした経験がちりも積もって、その人だけの「経験値」になっていきます。
経験値が多いほど、年を重ねたときに落ち着いて対応できることが増える一方で、経験が多すぎることが、かえって神経質さや不安の大きさにつながることもあります。すべてはバランスで成り立っているように感じます。
実は私自身、人見知りで緊張しやすい性格でした。それなのに、看護師という緊張を強いられる仕事を選びました。試験や現場実習のたびに緊張は増し、いつしか過敏性腸症候群になっていました。助産師になってからは夜勤が増え、眠れない日々が続きました。
あるとき、居眠り運転で事故を起こしてしまいました。それから半年間、毎日、うたた寝をするたびに、事故の瞬間の心臓の感覚がよみがえり、はっと飛び起きる状態が続きました。心臓は、あの瞬間のことを覚えているのだと、私は思っています。
これらは、若い頃からずっと私の中にあった「克服できなかったもの」でした。それが更年期になって、どっと表に出てきたのです。私の印象では、経験値が少ないところ、避けて通ってきたところ、苦手なこと、嫌いなこと——そうした場所から、更年期の症状が現れやすいような気がしています。
処理しきれなかったものが、更年期という時期に一気に押し寄せてくる。それは、脳が一度すべてをクリアにして、第二の人生を歩み出すために起こしている行為なのではないか——そんなふうに、私は考えています。かなり個人的な意見ですが、そう思うと、この時期の不調にも、少し違った意味が見えてくる気がしています。
まとめ
更年期に次々と現れる、一見バラバラに見える不調。その正体は、エストロゲンの減少が視床下部の乱れを引き起こし、自律神経や気分調節、そして全身に広がるエストロゲン受容体を通じて、体のあちこちに影響が及んでいるからでした。そこに、幼い頃からの自律神経の傾向や、生活環境、ストレス、そしてこれまでの人生で処理しきれなかったものまでもが重なり合い、その人だけの症状の出方になっていきます。
「気のせい」でも「大げさ」でもありません。数値には出にくくても、体の中では確かに変化が起きています。まずはご自身のつらさを、なかったことにしないであげてください。
そして、一人で抱え込まず、周りの理解を得ること、自分自身をよく知ること、更年期外来という選択肢があることも、ぜひ覚えておいてほしいと思います。
処理しきれなかったものが一気に押し寄せてくるこの時期は、つらい反面、脳が一度すべてをクリアにして、第二の人生を歩み出すための時間なのかもしれません。
デリケートゾーンの乾燥やかゆみについては、以前の記事でも詳しくお話ししています。あわせて読んでいただくと、更年期の不調のつながりがより見えてくるかもしれません。
婦人科、更年期外来、そして——なーさんに。話すだけでも、気持ちがすーっと軽くなることがあります。小さな疑問も、放っておけばちりも積もって、大きな不安になってしまいます。
どうか、ホルモンの扉を、私に開いてみませんか。

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